【ピレスロイド系殺虫剤】ペルメトリンの作用について【ベイト剤】【農薬解説】

家庭菜園・畑作りの雑記
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 今回は家庭菜園で使われるピレスロイド系殺虫剤の農薬ペルメトリンについてのお話です。

 我が家の家庭菜園で、春先のキャベツやレタスの植え付け時に使用しているのは、ピレスロイド系殺虫剤であるペルメトリン0.1%粒剤です。

 ネキリベイトという商品を使っています。

ペルメトリンは水和剤やエアゾール剤、マイクロカプセル剤等、色々な形態の製剤があります。ペルメトリン0.1%粒剤は、ネキリムシ類専用のベイト剤(毒餌)です。

 私自身、ネキリムシに植え付けたばかりのキャベツとレタスを食べられて、一晩で数株の苗を倒される被害を受けたことがあり、それからはこのネキリベイトを撒くようにしています。植え付け時のキャベツやレタスの茎は柔らかく、それがネキリムシの格好のエサになるようです。おそらくその辺の雑草よりも美味しいのでしょう。

ネキリムシとは

 ネキリムシは、カブラヤガ、タマナヤガなどの蛾の幼虫の総称です。

 昼は土の中に隠れ、夜間に地上に出てきて植物の茎を食べます。見た目は茶色で、表皮が柔らかい幼虫です。4~5日で孵化し、幼虫期間は約30日間、その後2~3週間地中で蛹で過ごします。1ヶ月かけて大食大型の幼虫になります。ネキリムシの被害に遭った翌朝、作物周辺を少し掘り返すとすぐ発見できる程の大きさです。

このネキリムシ(蛾)は年間に2~4回発生して、4~11月までに数世代経過します。

ペルメトリンの開発経緯

 日本では天然の除虫菊(キク科 多年草) からとれる成分のピレトリンが、かつて蚊取り線香に利用されていました。しかしピレトリンは光と酸素で容易に分解されるため、殺虫効果に持続性がありませんでした。また除虫菊から抽出するため経費と手間がかかることと、成分量が生産地域や年毎にバラツキが出ることも課題でした。

 農薬として利用するにはピレトリンよりも速効性があり、光と酸素に対する安定性を高め、簡易に安価で合成できるよう、成分開発が進められました。その結果、様々な合成ピレスロイド系殺虫剤が開発されました。

その改良された合成ピレスロイド系の一つが、ペルメトリンです。

ペルメトリンは世界でどう利用されているか

 ペルメトリンは農薬に登録されている殺虫剤です。世界中で農業・畜産・医療に使用されています。

 ペルメトリンは古くから使われているピレスロイド系殺虫剤ですが、日本国外ではシラミ駆除用にペルメトリン入りのシャンプーが使用されています。日本では人用のシャンプーに利用されることはなく、ペット用のノミダニ駆除シャンプーや首輪、住宅用の殺虫剤にペルメトリンが使われています。

 日本ではペルメトリンと構造がとてもよく似ているフェノトリンが、人用のシラミ駆除シャンプーや疥癬治療の外用医薬品として使用されています。

 近年、日本でのペルメトリン環境排出量は少なくなっています。衛生環境が整ってハエ、シラミ、蚊等の衛生害虫が減ったことや、ペルメトリン抵抗性の害虫が出ているので抵抗性種にも効果がある他の殺虫剤が次々と開発されて使用されるようになった等の背景があります。

 ペルメトリンは現在、農薬として数多くの作物に適用があります。哺乳類や鳥類に対する毒性がかなり低いことから、特に制限なく家庭菜園用の農薬として購入が可能です。

 畜産では動物用医薬品として利用され、ダニや蚊などのウイルスを媒介する害虫から牛や豚、鶏を守るために畜舎及び家畜に薬剤を散布する方法や、薬剤を塗布した管理タグを利用する方法で使われてます。畜産で殺虫剤を使用する場合も肉や卵・牛乳等が最終的に人の口に入るので、農作物と同じように残留基準を超えない使用方法が設定されています。実際のところ家畜に対してペルメトリン製剤を適正使用した場合は、出荷段階で残留値が検出下限値以下になっているため、畜産品からのヒトへの経口暴露が問題になることはありません。

 世界的にはアメリカ疾病予防管理センター(CDC)が疥癬(ヒセンダニが皮膚に寄生して痒みや炎症を起こす皮膚の病気)の標準治療に、ペルメトリン5%の外用剤の使用を記載しています。(クリーム剤を身体に塗り、8~14時間後に洗い流す。)

 日本でも疥癬治療にペルメトリン製剤の声が上がっていましたが、ペルメトリンと同等以上の効果がありラットとマウスの経口毒性がより低いフェノトリンのローション剤が近年認可されました。更にノーベル賞で有名にもなったイベルメクチンで100%近い効果が出たというデータがあることにより、日本での疥癬治療はイベルメクチンの経口薬とフェノトリンの外用剤の使用が標準になっています。

 医療用のフェノトリンの外用剤もペルメトリン5%クリームの使用方法に則り、ヒセンダニに寄生された皮膚全体に塗布した後、12時間後に入浴やシャワーで外用剤を洗い流す使用方法です。(皮膚表面のダニを殺虫することだけが目的であり、皮膚からペルメトリンを体内へ吸収する必要はないので、半日で残った成分は洗い流してしまってOK)

 しかし、身体を上手く動かせず全身塗布をすることが難しい場合や入浴の介助が必要な疥癬罹患者も多くいるため、経口投与で治療できるイベルメクチンがよく選択されます。

 このようにペルメトリンは人が使う医薬品として使われているため、副作用報告や物質の代謝・排泄に関するデータが存在します。実は人に使う医薬品として使われる物質は必ず人に対する何かしらのデータがあるので、安全性の評価がしやすくなるという利点があります。(医薬品に使われているから安心!ということではありません。薬剤は適正な量と使用方法を設定しなければ無効にも有効にも有毒にもなり得ます。

 農薬にはマウス・ラット、ウサギ等の小動物を使った投与実験のデータは多くあるものの、安全性を評価する際に哺乳類の種類の違いからは逃れられません。これは哺乳類間で代謝酵素のタイプが微妙に異なったり、持っている代謝酵素の量に違いがあったり、酵素がある臓器が異なったりといった理由が挙げられています。哺乳類の種類間、同種個体間での腎機能の違いも化学物質の排泄に大きな差を生みます。

 化学物質の安全性を検討するにあたっては、別の哺乳類動物の実験データが人間に当てはまる訳ではないことを考慮してデータを読む必要があります。

ペルメトリンの化学構造・物性・半減期

ペルメトリン(permethrin)の化学構造は以下の通りです。4種類の立体異性体がありますが、この中の1つではなく4種類が混在している状態で農薬製品になっています。

ペルメトリンの物性(水溶解度・分配係数など)

ペルメトリンの物理化学的性質として以下のデータがあります。(実験により多少のデータのばらつきがあり、数値にズレがあることをご留意ください。)

シス-トランス混合物は室温で無色~黄褐色の液体

凝固点 <-12℃

約252~270℃で分解

水溶解度 1.11×10⁻⁵g/L (20℃)

分配係数 log₁₀Pow 約6.36 (室温)

アセトン、メタノール、p-キシレンでの有機溶剤への溶解度

 >1000g/L (20℃±0.5℃)

土壌吸着性:かなり吸着性が高い

 土壌吸着定数(Koc) 1.815 というデータがあるが、吸着能が高く水層中のペルメトリン測定が不可能のため測定不能とするデータもある。

大きな特徴として、ペルメトリンは脂溶性です。単体ではほとんど水に溶けません。

そもそも水に溶けるにはその物質がイオン化できないといけないのですが、ペルメトリンは化学構造上イオン化できるところがないので、水1Lに対し11.1μgの微量しか溶けることができません。

その代わり、油にはとてつもなく溶けます。エタノールやアセトン、ベンゼンなどの有機溶媒には1Lに対し1kg以上溶けます。

この油に溶け易いという特徴が、農薬として使用する際に色々と影響してきます。

・水に溶けないから、水和剤や乳化剤の製剤には界面活性剤や有機溶媒を入れている。

 この配合された有機溶媒のせいで、皮膚に触れたり目や口入ると刺激感が起こることもあり。

・水に溶けないから、土壌に撒いても根からほぼ吸収されない。

 水と共に根から吸収されて植物全体に殺虫効果を占める殺虫剤は、水溶性の成分。

 吸収されないと残留量も少なく済む。

・水に溶けないから、作物に散布しても水分たっぷりの果肉部まで成分がほぼ浸透しない。

 雨をを弾く葉表面のワックス層でほぼ留まる。

・水に溶けないから、土壌吸着率が高く雨が降っても河川へ流入する量は少ない。

 ただし油に溶けると回収が困難。精油加工したい植物に使う場合は注意が必要。

・脂溶性が高すぎるから、ヒトの皮膚に付着しても角質層に留まり体内側への移行量は少ない。

 動物の皮膚表面から体内に移行するためには、絶妙な脂溶性と水溶性の割合が必要。

ペルメトリンの半減期

 農薬における殺虫剤はある程度の持続性が求められて開発されるので、ウイルス・菌に効果を示す消毒剤よりは半減期は長くなります。ピレスロイド系は生物による分解が一番の早いため、無菌条件下では半減期が長く、土壌中の多種多様な微生物が存在する条件下では半減期がとても短くなります。

加水分解試験

 ・PH4、PH7では分解はほとんど無し(1年以上、安定)

 ・PH9では半減期35~50日程度

ただし、光を当てるとPH4、PH7でも分解が早くなる。

 ・滅菌蒸留水 約40日

 ・自然水 約30日

水中光分解試験

 光誘起による異性化が起こる。シス体はトランス体に比べてエステル結合の開裂を受けにくいため、光に当てることでシス体がトランス体に変化すると分解が早くなる。

(太陽光換算による推定半減期)

 PH4で51.1日

 PH7で39.9日 

 暗所では安定

土壌中運命試験

砂土壌、好気的、25℃、暗所条件下での試験から推定された半減期

 シス体 推定半減期 2.3日

 トランス体(cyc⁻¹⁴C) 推定半減期 2.5日

 トランス体(phen⁻¹⁴C) 推定半減期 1.1日

土壌残留試験(20%乳剤)

 ほ場試験(畑地土壌) 約11日~15日

生物分解性試験

 土壌中半減期(好気的分解) 4~19日

ペルメトリンの作用機序

 標的の虫の神経にあるナトリウムチャネルに結合して、異常な神経刺激を起こし速やかに麻痺をさせてノックダウン、殺虫作用を示します。

 ピレスロイド殺虫剤の作用機序を説明するには、神経伝達についても少し知識が必要なので触れておきます。(少し難しい話なので、読み飛ばしてもらっても構いません)

 神経伝達は電気信号で行われています。主に神経細胞内と細胞外のナトリウムイオンとカリウムイオンの濃度差が起こす電位差によって信号が制御されてます。(他の細胞においてはカルシウムイオン等別のイオンも関与しますが、ここではその話は省きます。)

 神経細胞の膜電位が活動電位に到達すると、一般的に表現される「神経が反応した」という状態になります。

神経細胞の膜には、ナトリウムイオンの通り道とカリウムイオンの通り道があり、その通り道の開閉によって神経細胞の膜電位が変動します。

 神経細胞の通常の状態は以下の図の通りです。静止膜電位と脱分極と再分極をしっかりとこなし、神経の電気信号がオンオフができている状態です。

 ピレスロイド系の殺虫剤が神経細胞に作用した際に起こるのが、以下の図の通りです。

ナトリウムチャネルにピレスロイド系殺虫剤が結合することで、反復興奮が起こして痙攣状態を引き起こします。けいれん状態が続くと神経が完全に反応しなくなり、殺虫されます。

ピレスロイド系殺虫剤の特徴 触れたらすぐ効く速効性

 ペルメトリンを含むピレスロイド系殺虫剤は、速効性があり虫が殺虫成分に触れるとすぐに効果が出ることが大きな利点となっています。単剤の農薬だけではなく、園芸用として3種類程の殺虫成分を配合した殺虫スプレー等が売られていますが、その成分の一つにピレスロイド系殺虫剤が含まれていることが多いです。

 もし目の前に害虫がいたとして、殺虫スプレーをかけた後すぐに目に見えて効果が出なければ、効いていないのかと勘違いされてしまいます。(アリの巣を退治する遅効性の疑似餌であれば、すぐに効果が現れなくても理解されるのですが。)

 触れたら速効1秒で効果を!という時に使われるのがピレスロイド系殺虫剤です。

ノックダウン効果とは

ピレスロイド系殺虫剤においてノックダウン効果と記載されていることは多いのですが、意味としては以下のことです。

ノックダウン効果とは、

飛行する虫に対しては速やかに飛行能力を失い、歩行する虫に対しては速やかに正常な歩行をできないようにする効果のことをいいます。

殺虫剤の効果が速効で出る事を、ノックダウン効果というように記述されていることが多いです。

 ノックダウン効果が出たら殺虫されたというわけではなく、ノックダウン効果が現れた後、効果が軽ければノックダウンから回復することもあります。暴露量が少なかったり、もともと感受性が低い虫だったりすると一時的なノックダウンで済むこともあります。

農薬においてのペルメトリンの使用方法

0.10%ペルメトリン粒剤

ネキリムシ専用の擬似餌の殺虫剤。ネキリベイトは赤色粒状 径3mm 長さ3〜10mmの粒剤。

有効成分(ペルメトリン) 0.10%
その他の成分99.9%:穀粉(ネキリムシを誘き寄せる成分)、鉱物質微粉等(粒剤の形状を保つためのベントナイト等の粘土成分、殺虫剤と見た目で判断できるための赤色着色用鉱物質など)

使用方法 作物植え付け直後に、株元の土壌へ広めに散布する。

20%ペルメトリン乳剤

直接害虫に薬剤を散布またはペルメトリンが持つ忌避作用を利用し、防虫作用を発揮する。
カメムシ、ハマキムシ、アブラムシ、蛾などの幅広い害虫に適用する。大規模農場向き。
必ず規定倍数での希釈を行う。

有効成分(ペルメトリン) 20%

エチルベンゼン、キシレン 約72% (配合比率は製造会社による)
(水難溶性のペルメトリンを溶かすための有機溶剤)

界面活性剤 約8%(ペルメトリン&有機溶剤と水を乳化するために必要なもの。これがないとペルメトリン(油)と水で分離してしまう)

使用方法 2000〜4000倍を作物全体的に散布する。(希釈倍率は作物と適用害虫、散布方法より異なる)
キャベツには株元灌注、ダイズには無人航空機による散布といった特殊な方法も認められている。

20%ペルメトリン水和剤

有効成分(ペルメトリン) 20%
鉱物質微粉、界面活性剤 80%

乳化剤よりも有機溶剤が少ないタイプ。ただし適用作物は樹木類のもも、ぶどう、りんご等と限られている。

使用方法 2000〜4000倍に希釈し、散布する。

0.20%ペルメトリンエアゾル

りんご、かんきつ、びわ、いちじくの樹木のカミキリムシ駆除に使用される。希釈不要。空気の力で噴出する。

使用方法 樹木のカミキリムシが侵入した穴にエアゾルのノズルを差し込んで薬剤を注入する。

0.010%ペルメトリン乳剤、0.010%ペルメトリン液剤、0.010%ペルメトリンエアゾル

アブラムシ、アオムシの防除に使用される
ハンドスプレータイプの製品であり、希釈不要で原液で使えるため家庭菜園向き。

有効成分ペルメトリン 0.010%
水、界面活性剤 99.99%

使用方法 原液そのままを適用作物に散布する。

その他 ペルメトリンと抗菌薬の合剤

アオムシ、蛾などの殺虫と、菌によるうどんこ病や葉かび病を防除する。

使用方法 原液を作物に散布する。

ペルメトリンベイト剤の成分

 ペルメトリン0.1%粒剤の成分は、

・ペルメトリン(殺虫成分)…0.1%

・穀物・鉱物…99.9%

 ベイト剤のペルメトリンの成分量は0.1%であり、水和剤やエアゾール剤と比べると高い濃度で入っています。作物に直接散布するわけではなく、ヒトと作物への暴露がほとんど無い使い方をするからこそ可能な0.1%濃度です。

 穀物は米ぬかなどのネキリムシが好きな食べ物が入っています。おびき寄せるために重要な働きをする成分です。

 鉱物はベイト剤の粘着剤として使われる成分です。主に粘土質の鉱物が最低限の量で入っています。これが無いと粒剤にはならず、運搬中に粉砕して粉状になってしまいます。粘土質の鉱物は、家庭菜園で扱いやすい粒状の形を作る大切な役割をします。

ペルメトリンのベイト剤の作用の仕方

では、ペルメトリンのベイト剤はどのようにネキリムシを退治しているのかのお話です。

ネキリムシは、夜に地中から出てきて活動し始めます。柔らかい葉や茎を求めてやってきたネキリムシは、株元に撒いたベイト剤に釣られて近づきます。

ベイト剤の主成分の一つである穀物類はネキリムシの好物です。ネキリムシがベイト剤を食べます。

食べることによって作用すると言われているペルメトリンベイト剤ですが、ペルメトリンは薄めて散布するだけでも殺虫剤として効果を示すので、表皮の柔らかいネキリムシにはベイト剤に触れただけでも作用する可能性があると考えられます。

食べたネキリムシの神経伝達が異常興奮状態に。痙攣状態です。速効性により、すぐに異常が出て上手く動くことができなくなります。

その場で痙攣して殺虫されるネキリムシや、歩行がおかしくなった状態で必死に移動しようとするネキリムシがいるかもしれません。

この後はペルメトリンの暴露量によってノックダウンになったネキリムシが復活するか殺虫されるか分かれますが、いずれにしろ作物の株は守られる結果となります。

ペルメトリンのベイト剤を使っていて、

「ベイト剤を食べた形跡が見られないのだけど…」

と感じる方は多いと思われますが、ペルメトリンがもつ速効性ゆえに食べる前に逃げている可能性がありますので、作物が元気であれば心配しないでください。ピレスロイド系殺虫剤が持つ、忌避効果・フラッシングアウトと呼ばれる効果でネキリムシが逃げることもあります。(おびき寄せて、触れたら逃げさせるということになりますが…。)

実はペルメトリンは接触毒性による殺虫効果が高く、食毒やガス効果はそれよりも微弱と考えられています。

ペルメトリンの分解経路

 ペルメトリンは、土壌中では主に微生物による分解や光による分解を受けて消失します。

ペルメトリンのトランス体は容易にエステル結合が開裂し、3-PB(3-Phenoxybenzoic acid)とCl₂CAへと分解します。

 ペルメトリンのシス体はトランス体よりもエステル結合開裂の分解が進みにくく、フェニル環の水酸化やフェノキシフェニル部位のエーテル結合開裂が主な分解反応として進みます。シス体に光を当ててcis体↔trans体を起こさせる(光異性化)とエステル結合の加水分解が進みやすくなります。

 シス体トランス体の分解反応の差は、1~2か月におよぶ作物育成期間において分解速度の差にならず、実際に作物に使用した残留試験ではシス体とトランス体でペルメトリン残留の差はないという結果が出ています。

好気的土壌中のペルメトリンの分解反応

trans-ペルメトリン

1)①~③の分解反応が起こる。①は一番起こりやすい反応、②と③はわずかに起こる反応。

 ①(主経路)エステル結合の開裂(trans-Cl₂CAPB alcの生成)およびアルコール部位の酸化によるPB acid(3-PB)の生成。trans-Cl₂CAと3-PBはtrans-ペルメトリンの主分解物

 ②フェニル環の4´位の水酸化による trans-4´-OH-PRM、4´-OH-PBalc 及び 4´-OH-PBacid の生成。( 4´-OH-PBacid は 4´-OH-PBalc が酸化したもの)

 ③フェノキシフェニル部位のエーテル結合の開裂による trans-desphenyl-PRMの生成。

2)土壌有機物との結合による土壌残渣の生成。土壌中のフミン、フミン酸、フルボ酸といった有機物に結合する。

3)CO₂への無機化。120日後には27.7%がCO₂になり揮散する。

好気的土壌中で120日間後、trans-ペルメトリンの残存量は3%未満である。

cis-ペルメトリン

1)フェニル環の4´位の水酸化による cis-4´-OH-PRM の生成。(cis-ペルメトリンの主分解物の一つ)

2)フェノキシフェニル部位のエーテル結合の開裂による cis-desphenyl-PRM の生成。(こちらもcis-ペルメトリンの主分解物)

3)エステル結合の開裂による cis-Cl₂CA の生成。

4)土壌有機物との結合による土壌残渣の生成。

5)CO₂への無機化。120日後で24.3%がCO₂になり揮散する。

好気的土壌中で120日間後、cis-ペルメトリンの残存量は4.3%である。

 

ペルメトリンの選択毒性・人への影響

 ペルメトリンを含むピレスロイド系殺虫剤は、虫には即効で作用しますが哺乳類や鳥類にはほとんど作用しません。
この違いについては数々の仮説があります。

・ピレスロイド系は温度が高いと作用が弱くなる性質があるため、恒温生物には作用が弱いのではないか。
・虫よりも動物の方が代謝能力がはるかに高いからではないか。
・虫のNaチャネルと哺乳類と鳥類のNaチャネルの構造が異なるからではないか。

 ピレスロイド系は疥癬の治療薬に使われており、ヒトの表皮に塗ってもノックダウン効果を示すことから温度の影響は低いと予想されます。

 虫と動物との代謝能力に関しては、動物が持っているカルボキシエステラーゼという酵素がピレスロイド系を加水分解して解毒作用をすることが知られています。この加水分解酵素を持つ動物はピレスロイド系の分解が早く、その違いが虫と動物の作用の差になっている可能性は大いにあると思われます。
 ヒトにおいてはCES1というカルボキシエステラーゼがピレスロイド系を分解します。ヒトのCES1は主に肝臓に存在しており、皮膚にピレスロイドが付着した時には肝臓に到達する前に少しだけ神経に作用する可能性があります。このことが、ダニ駆除用のピレスロイド系の外用剤を皮膚に塗布した際に、皮膚に刺激感が出るという理由になっているのかも知れません。(ただし、ピレスロイド系の刺激感は全てのヒトに発現せず、ピレスロイド系外用薬を使用した人の5%以下で出てくる程度)

 Naチャネルの構造の違いも、有力な説だと私は考えています。哺乳類と虫とではナトリウムチャネルの構造に大きな違いがあり、虫のナトリウムチャネルでは哺乳類のナトリウムチャネルよりも、ピレスロイドの感受性が高いと言われています。
 同じ虫でもナトリウムチャネルに遺伝子変異が起こると、容易くピレスロイド系に耐性を持ってしまいます。ピレスロイド系殺虫剤への耐性化は、Naチャネルを構成する遺伝子が変異が原因と考えられています。

 もしヒトがピレスロイド系を摂取してしまったら、速やかに体内の肝臓のカルボキシラーゼにより3-PBやCl₂CAのグルクロン酸抱合体に代謝され、尿中へ排出されます。(シス体は未変化体や水酸化したものが糞中へ排出されることもある。)

 ピレスロイド系で人が中毒になるには相当量の濃度を摂取した場合ですが、農薬として使用されている濃度では人体への危険性は低いです。(約22gのマウスががネキリベイト製品3.8g分のペルメトリンを一回で摂取して、影響が全く出てこないレベル。ビーグル犬4頭に毎日ネキリベイト3袋超のペルメトリン量を経口摂取させると、毎回振戦や興奮が現れるがすぐ回復し死亡例は出なかったという実験データがある。)

また経口と比較して経皮作用はさらに現れにくく、多少皮膚に触れてしまってもすぐに洗い流せば問題はありません。

 しかしピレスロイド系で害が出なくても、製品に利用されている有機溶剤や乳化剤、粘土と穀物の混合物などの薬効成分以外の物質で体調不良を起こす可能性があるので、決して目や口に入れないようにしましょう。

 哺乳類・鳥類には毒性が弱いものの、爬虫類・両生類・魚類・エビ・藻等には少量で作用が現れてしまうので、それらをペットとして飼っている場合は取り扱いに気を付けてください。

参考文献

佐藤仁彦,宮本徹編(2003).農薬学,朝倉書店.

宮川恒,田村廣人,浅見忠男 他著(2004). 新版 農薬の化学, 朝倉書店.

農薬抄録 独立行政法人 農林水産消費安全技術センター(FAMIC)

アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)

住友化学園芸 ネキリベイト製品情報, 技術資料

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