こんにちは!
今回は自分の畑で使ってみようかと思って買っていた熔リンについて、施肥前に色々と調べてみました。熔リンは肥料の3要素である窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の、リン酸を補う肥料の一つです。
主なリン酸肥料(単肥)
代表的な単肥のリン酸肥料はこの2種類
・過石(過リン酸石灰)
一般的に利用されている単肥のリン酸肥料。速効性で生育初期から効果が出る、水溶性のリン酸肥料。生理的中性・化学的酸性(pH3前後)であり、石灰を含んでいても土壌のpHを上げない。低度化成肥料(8-8-8など)の原料として配合されている。副成分として石膏(硫酸カルシウム)を40%~50%程含んでいるので、硫黄(S)と石灰(カルシウム)も補給できる。
・熔リン(熔成リン肥)
く溶性リン酸という、水に溶けにくいリン酸を20%程含む緩効性リン酸肥料。アルカリ性(pH8~10)であり、苦土(マグネシウム)や石灰(カルシウム)、ケイ酸も含む。やせた土地や火山灰土の酸性土壌改善に利用される。苦土はリン酸と一緒に植物に吸収される性質を持つため、リン酸と一緒に苦土を補給するとリン酸の吸収を高める。
「クエン酸2%の溶液に溶ける」性質を「く溶性(ク溶性)」という。植物の根から出てくる有機酸(クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸など)や酸性肥料(硫酸アンモニアや硫酸カリウムなど)に触れるとリン酸が溶け出して、根から吸収されるようになる。
その他のリン酸肥料
・亜リン酸肥料
リン酸(H₃PO₄)の酸素原子が一つ少ない、亜リン酸(H₃PO₃)を含有するリン酸肥料。溶解性が高く速効性。酸性。分子量が小さいので植物に吸収されやすいという利点がある。
・苦土重焼リン
水溶性リン酸とく溶性リン酸の両方を含む。生理的中性。苦土(マグネシウム)含む。
・リンスター
水溶性とく溶性の中間的な性質。pHを上げずリン酸、ケイ酸、苦土(マグネシウム)、石灰(カルシウム)を補給できる。
こちらが今回購入した熔りん
BMようりんです。ホウ素(B)とマンガン(Mn)も配合されています。必須微量元素の補給もしたかったので、釣られて買いました。
裏側には施肥量の目安と配合成分が表記されています。く溶性苦土、く溶性ホウ素、く溶性マンガンと、く溶性リン酸以外の酸性で溶ける性質の成分が含まれています。
使用量の欄を見てみると、う…ん??
・元肥 100~150g/㎡
・追肥 元肥の1/3~1/2の量を適時施す。
この通り使うと、失敗するような予感がする記載が。この記載の使い方だと何が良くないのか、気になった点を解説したいと思います。
熔リンは生育初期の段階では吸収されにくい
元肥 100~150g/㎡。く溶性リン酸は20%なので、リン酸量として20g~30g/㎡。
これは元肥として入れるリン酸量としては、これでほぼ全て作物を育てることができる適正な量です。
過石(過リン酸石灰)なら、この量で良いでしょう。
しかし、熔リンは緩効性リン酸肥料です。熔リンのみ施肥すると、作物の生育初期にリン酸を十分に効かせることができません。植え付け前の基肥には過石を使う必要があります。
作物生育初期のリン酸は重要
リン酸は、動物でも植物でも代謝にかかわる重要な成分です。生きるためのエネルギーを作る過程で、リン酸が使われます。根が十分に伸びる前にリン酸をしっかり植物に吸収させることで、葉数を増やし、茎が伸びて大きく成長を進めます。
生育初期にリン酸が欠乏すると成長が遅くなり、ひどければ成長が止まってしまいます。リン酸は「花肥・実肥」とも言われ、花の付き実の成りを多くすると言われてますが、花や実がなるもっと初期の段階から働く必要な栄養分です。
土壌のpHの上げすぎに注意
熔リンはアルカリ性なので、酸性化した土壌のpHの補正として使うことができます。作物の適正なpHは5.5~6.5とやや酸性なので、この範囲を超えないように気を付けましょう。(上げすぎるとホウレンソウしか作れない土壌になってしまいます。)
施肥の前に必ず土壌のpHを測定して、pHが既に高い場合は熔リンの施肥を避けたり、減量したりします。
熔リンはアルカリ性なので、一般的にpH補正に使われる苦土石灰や炭カル、有機石灰(これらは圧倒的に取り扱いが簡単で家庭菜園向き)と同時に施しても問題ありません。
しかし、アンモニウムを含む肥料と熔リンを同時に畑に施肥すると、アンモニアガスを発生させて空気中に飛散してしまいます。窒素肥料の硫安・塩安・硝安や、化成肥料、窒素分が多い鶏糞などの堆肥と同時に使うのは避けてください。
熔リンは追肥に向かない
そもそもリン酸は基肥で全量施肥が基本
実は多くの作物はリン酸を追肥する必要がありません。リン酸は生育初期の段階で必要であるのと、土壌に固定されて流亡しにくい性質から、基肥として最初から全量を施肥するのが基本です。窒素とカリウムは雨水などで流亡しやすいので、追肥として補充します。(栽培期間が短い葉物の野菜やラディッシュなど、追肥自体が必要ない作物もある。)
しかし、作物のリン酸過剰による障害は表れにくいため、窒素とカリウムの単肥が無い場合は追肥を化成肥料(8-8-8)で代用することも多くあります。施肥の指標を定める際、追肥を化成肥料で行った過去の栽培事例を参考にするため、多くの施肥基準では追肥のリン酸量が記載されているようです。
追肥は早めに肥料分を効かせたい
追肥を行うタイミングは生育が盛んな時期であり、早めに効果が出てくる速効性の肥料でなければなりません。もしリン酸を追肥する場合は、速効性の過石(過リン酸石灰)が配合された化成肥料を使います(リン酸は基肥主体なので、追肥する場合は少量でOK)
追肥で使う他肥料と配合変化を起こす可能性あり
実際に追肥する時期になった際、窒素とカリウムの肥料を主体に施肥します。これらと配合変化を起こすアルカリ性の熔リンは、他肥料と同時に使えません。施肥のタイミングの見極めが難しくなります。
熔リンの使い方
上記のことから私の見解として、熔リンはこのような使い方をおすすめします。
・緩効性の熔リンと速効性の過石(過リン酸石灰)を半分ずつ施肥して、初期~長期まで効果を続けさせる。
・酸性になった土壌の酸度調整に利用し、ついでに苦土・石灰を補充する。
・黒ボク土などのアルミニウム鉱物が多く含まれるやせた土壌の初回の畑の際に、土壌改良としてリン酸成分補うために使う。(熔リンのく溶性リン酸は、過石のリン酸よりもアルミニウムと結合しにくい。そしてアルミニウムと結合した不溶性リン酸よりも、く溶性リン酸の方が植物に吸収されやすい。)
・追肥には使わない。使う必要もない。
熔リンを使うタイミング
種まきや植え付けの3週間以上前に熔リン・他の石灰を撒いて耕し、その1週間後に堆肥も撒いてよく混ぜておきます。(熔リン・石灰→堆肥までは前年秋に施しておいてもOK。)さらにそれから1週間以上空けて、植え付け前1週間前に窒素肥料・化学肥料を施します。
熔リン・石灰→堆肥→肥料の順番で、それぞれ間を1週間空ける理由は配合変化の影響を少なくするためです。(アンモニアガスの発生を抑える。)
最後の肥料を種まき・植え付け前の1週間前に施す理由は、速効性の化成肥料でも撒いてから効果が出てくるまでに1週間程度かかるためです。
おまけ リン酸肥料の過剰施肥に注意
リン酸は石灰分や火山灰土に多く含まれるアルミニウムや鉄と結合して不溶性になりやすく、植物に吸収されにくい状態で土壌に多く蓄積されます。不溶性になったリン酸は根から吸収しにくく、一部の根から有機酸を多く出す植物以外はリン酸欠乏で育たなくなります。(一部のイネ科やマメ科の植物が比較的有機酸を多く放出する。ルピナスやススキ、ササは荒れた火山灰土でもよく育つ)
そのためリン酸を効かせるためにリン酸肥料の大量施肥を行い続けて、作物が使う以上のリン酸が過剰に溜まった農地が多くあるようです。もちろんリン酸過多になると、植物の生育に影響が出てきます。(比較的病状が発生しにくい。)葉に斑点が出てきたり、鉄と亜鉛の吸収が抑えられて必須微量元素の欠乏症が出てきたりすることもありますし、必要以上の施肥は周囲の環境を汚染の原因になります。
現在はリン酸の過剰施肥を行わないような取り組みがされています。北海道の施肥ガイド2015では、リン酸過剰施肥対策を考慮した施肥基準が設定されており、必要以上のリン酸肥料を施さないよう減肥の目安が記載されています。
最後に
以上が、今回私が調べた熔リンの内容になります。
パッケージの裏側の使用量記載にワナが仕掛けられていたことには驚きましたが、肥料の性質を知っておくと適切な使い方を自分で考えられるので調べた甲斐がありました。単肥の記載は少し難しくて、家庭菜園初心者に優しくない…。
次回シーズンになったら、私は土壌pHの調整と必須微量元素の補充目的で熔リンを利用する予定です。また、我が家の土地は黒ボク土なので土壌改良も兼ねて使ってみようと思います。(現在リン酸欠乏のやせた畑なのは、前年の作物の育ち具合から判明しています。)基肥には全量過石を使う予定です。今回は熔リンの施肥量は、基肥に含めないことにします。
今回は熔リンのお話でした!ではまた!
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